ば、まず誤審の第一段階はさけうる性質のものだと云えましょう。この事件には、その重大な第一段階にメンミツな実証作業を欠くところがあったようですね。
 さて、二審に至ったときに、一審の自白をひるがえして、無実であると主張して新しい供述をしたそうですが、もうその真偽をたしかめることはできない。わざと今ごろになってから真偽のたしかめようのない供述を行ったという風に悪く解釈もできるけれども、そういう仮定が慎しむべきであることは云うまでもなく、第一審に無実の主張やその証拠となるべき供述が行われなかったのはナゼであるか、徹底的に追求がなさるべきであったろう。そして追求の結果として、逮捕直後にその供述が行われたことがあったが、その裏づけの調査に欠くるところがあって、今となってはその真偽を明かになし得ない。そういう事情がハッキリしたとすれば、第二審の今日に至っては時日を経たためもはや真偽立証の道がないが、立証不能ということは、彼が犯人であるかないかの証拠としては五分と五分で、彼の供述を否定する事実なき限り立証不能の責任は容疑者の方にはないのである。したがって、他に被告の犯行を決定的とする証拠がない限りは
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