もオレは別だと云いたいでしょうが、却々《なかなか》もって。とにかく大いに反省用心して、常に慎重に傾斜を正しく考察を新にするような心構えがガッチリしていても傾斜し易いのが人情でしょう。
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小林大内が犯行を否認して自分らの当夜の行動としてのべている事柄の中から、犯人であるかないか、かなり明確に定めうるカギはあったと思います。彼らはその晩、農家から一俵盗みだし、袋に詰めかえて被害者宅へ持参したといい、結局、附近にすてられていた米のつまった袋が容疑の端緒となったのだそうですが、盗まれた農家も、俵の米を詰めかえた場所も実在しなければならぬ筈であるし、その反対に、被害者宅の貯蔵の米が何者かによって詰めかえられて運びだされた形跡があったか。最初の現場検視が厳重に細部に行きとどいていて、彼らの供述に応じて直ちに事実との照合が厳密になされたなら、彼らが被害者を殺した犯人ではない、という証明はそこからは直接に得られないにしても、盗んだ米を袋につめかえて売るために持参したという供述の真偽は得られたであろう。
そこまでの供述の真偽が決定すれば、すでにそのときからタタミの上の足跡の
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