ら、喜んでその懐にとびこんで行くでしょう。
[#ここで字下げ終わり]

「サン」にこの婦人が人形に御飯をたべさせている写真を見たとき――もっとも、それは御飯でなくてウドンでしたがね、で、ハシにはさんで人形の口のところへ持ってかれたウドンが、むろん人形の口にはいる筈はないからアゴから胸の方へ垂れ下っているのですが、すぐ気にかかるのは、このウドンの始末はどうなるのだろう、ということであった。
 この手記を読むと、それをあとで自分が食べると書いてあるから、アア、なるほど、そうか。私はひどく感心したが、しかし、ちょッと、だまされたような気がして、なんとなく空虚を感じて苦しんだ。人形とともに生活するという夢幻世界の話にしては、ひどくリアルで、ガッカリするな。人形よりも全然人間の方に近すぎて、悲しいや。
 人形の口のところへ持ってったウドンを、次に自分の口へ持ってってたべて、また新しくウドンをハシにつまんで人形の口へ運んでやって、それをまた自分の口へ運ぶというヤリ方であろうか。それとも人形の口の前からいったん元のお茶碗へ返して、また新しくウドンをつまんで、というヤリ方だろうか。そのとき、新しくハシ
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