昔から災難を托して川に流したり、神社に祀ったり致しますが、そういう宗教的な意味からも、子供として単に愛するという丈でなく、半分は人形として尊ぶ気持です。
私は幼い時に両親を亡くして後、弟と、祖父母に育てられましたが、そんな境遇からか人になじめない変った性格の子で、一人っきりで人形等いじって遊んではいました。特別に興味を持つという事もなく、文学少女で小説を書きたくて或先生についたり、終戦前雑誌社にお勤めしていた事もあります。
お人形ですから、表情が動く訳ではありませんが、喜びや悲しみが見えるようで、寒くなると風邪をひいたんじゃないかしらと思い、お留守番をさせると、“連れてって”と泣き出す顔が浮んで来て、大粒の涙がポロ/\こぼれたりします。お八ツを買って慌てゝ帰って来ますが、三度々々の食事も、お風呂も、おシマツも人並ですの。勿論食物が喉へ通る訳ではありませんから香りを食べさせて、あと私がいたゞきます。夜|寝《やす》む時はガーゼを目にあてて、少しでも光線の当りを防ぎます。
此の頃、ベニちゃんミツキちゃんエイコちゃんと七人の弟妹が出来まして慣れたので、留守番をさせる事が多いのですが、以前
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