まずGHQへ行き、次に宮内省へ行き、キョウクおくあたわず、かね。天皇にわびて、どうなるのだ。笑わせるな。実に奇怪な人間どもにジッと見送られ無視されつつ、電車の人々は焼け死んだのだね。天皇のところへ、とるものもとりあえず、お詫びに参上という、実にどうも、上から下まで、どこにも人間が存在していないのだ。こんな奇怪な事件があるものかね。
この婦人は女の身でよく助かったものだ。こんな時に助かる自信のある人間はいるもんじゃない。まったく、偶然、幸運、ラクダがハリの目をくぐるようなものだ。私のようなデブは第一あの三段窓はどうしてもくぐれないね。窓から乗降した経験も、生れて以来まだ一ぺんもないや。しかし私は治にいて乱を忘れずという要心深い人間だから、鋼鉄車にはさまれた木造車には決して乗りませんよ。すべてについて、その程度の要心は、酔っ払っている時のほかは忘れたことがない。しかし、桜木町事件は処置なしですよ。
この御婦人も助かったのだから、わが身の幸多かりしことをよろこび、もって心の落着きをはかるべし。たまたま、どうも、ジャケンなツワモノにのみ遭遇して、後は甚だ間がわるかったんだね。先よければ後わ
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