込みするので、お互は出られず足をバタ/\させている人々の姿が映りました。そして洋服に火がつき転がった人の上を飛ぶような恰好で踏み越える人をみました。けむりで眼が見えなくなり、熱気と臭気に胸がつまって、わたくしは倒れそうになりました。「駄目!」とひきつるように感じ「恵里ちゃん!」と、いうじぶんの叫びになんども意識を取戻しました。その時、わたくしは宙に白い足を見て、それに本能的に飛び付きました。それは窓から出た人の瞬間の姿で、わたくしがつゞいて逃れたのです。窓の上層部のサンが焼け、ガラスが落ちたのだと思います。頭と背とサンを掴んだ右腕全体が焼けていますから。
 はじめわたくしは国際病院にやらされました。傷の痛みに早く治療をしてくれと頼むと、国鉄員は邪険な激した口調で、
「こっちは物のいえる人に構うどころではない。死人の事で一杯なんだ」
 と、いゝました。十全病院に廻るよういわれました。そこで赤チンをぬられ繃帯をしてくれましたが、後で、わたくしが近所の医者で治療を受けた時、医者も、大やけどに直接赤チンに繃帯とはと、その手当の粗雑さにあきれていました。新聞社の人が自動車で東京まで送るからと寄っ
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