、一生平穏でありうるかどうか。そういう予言は全然できません。
桜木町生残り婦人の話 沼田咲子(廿九歳)
[#ここから1字下げ]
わたくしと良人と恵里ちゃん(当歳の赤ちゃん)とは、京橋のわたしの実家に行くべく北鎌倉を出ました。途中桜木町に買物があり横浜で乗換える時、わたくしはそれまで抱いていた恵里ちゃんを良人に渡し、わたくしは良人の荷物を受取って、来ていた電車にのりました。瞬間ドアーが閉まり、一足遅れた良人と恵里ちゃんは残されました。どうせ後から来るのだからと気にしませんでしたが、あとで、もしわたくしが赤ちゃんを抱いていたなら、と、ぞっと致しました。
わたくしは最前輌の中央部に乗っていました。パチッ! と、激しい音、はっと、天井を見上げると青と黄と赤のまじりあったなんともいえぬ恐ろしい光がさッと走りました。つづいて怒声、叫声、悲鳴、車内をゆする波にわたくしはもまれ、危ない! という感じと共に、窓や出入口を見ました。それは開きません。後は突飛ばされ、押し返され、二度ほど人の上に転びました。わたくしの眼にはその時、窓から半分からだを出したまゝ、またその上から別の人が首を突
前へ
次へ
全32ページ中23ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング