だけなのかも知れません。人により、いろいろ様々で、山口さんの場合がどうだか、その真相は見当がつきません。
しかし、要するに、こういう病気というものは、心理を解いてみたって、どうなるものでもない。病人の隠れた心理を指摘して、心の誤りを訂正してやったところで、実際の故障はすでに心にあるのじゃなくて、生理的な故障、機械のどこかが故障しているのだ。
狂った心理の解釈は明らかにされても、悩みを解決したことにはならんね。その願望がみたされなければどうにもなりやしないじゃないか。また、その願望のみたされない場合に、人は必ずキチガイになるというわけではない。ならない人の場合が多いね。要するに機械の故障だけが問題さ。病院で電気ショックをやってるそうだから、彼は遠からず記憶をとりもどすでしょう。彼の記憶喪失は分裂病のように異常状態の表れが複雑じゃないから、故障もごく単純なような気がするのさ。こう手軽に見るのは素人考えかも知れんが、パチンコ屋のオヤジ式にトントンと叩くうちに正常にかえりそうだよ。
しかし、正常にかえって後、この青年が就職して然るべき俸給をもらい、妻子に世間なみの幸福を与えることによって
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