眠る前に、今朝とか昨日とか、そういう行動をしていたとしか信じられない。つまりそれほど差しせまった現実的な夢ばかり見るわけです。たとえば友人に会って金策をたのんだり、女房が悪い病気になったと思いこんで(というのは、女房が病気になったと私に打ちあけた、それも実は夢だったが、私はそれを二年間も本当に女房がうちあけたことがあったと思いこんでいました)親しい医者のところへ治してやってくれと頼みに行ったり、借金を払いに行ったり、夢という夢がそういう身に差しせまったことばかりで、それが夢だという考えは全然心に浮ぶ余地がない。で、私がそれを人に語るとトンチンカンで、またオレをだますか、と、それでよく逆上したものであった。人々が共謀して私をだましているとしか思われなかったからです。どうも、これは健忘性のアベコベのような現象だね。夢の中で現実を生活し二ツが合一して区別がつかず、まったく完全に一ツの生活になっているのだからね。しかし、子供が眠りから目をさましたとき、時々こういう状態になるようですね。もっとも、すぐ気がつくらしいが。
 泥酔した翌日、ゆうべ酔ってしたことに記憶がなくて苦しむこともある。私は酔っ
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