男の子全部のことまでズバリと云われると、世間の人はハッとするのが当然だね。クリーニング氏の判決のついでに、男の子全部に判決を下してはチト迷惑だなア。男の子だって色々とあらア。
 裁判官というものは、どんなに予測しない事情のゴタゴタが起るか知れん、という前提に立って、常に当面するその物だけを相手に判断さるべきでしょう。すべてのゴタゴタがユニックでさア。公式が先立つわけには行かないでしょう。
 クリーニング氏は夫人方の親戚へ住みこんでそッちの家業を手伝っておるから日常は孤立無援で、おまけに嫌っているのは確かに夫人の方だから、まア聟が追んだされると同じような心境を味い、慰藉料ということを思いつくに至ったのであろうが、そのへんの心境は同情はできるね。失われた童貞に対する慰藉料というと、彼氏の場合は妙であるが、その日常のサンタンたる心事に対する慰藉料といえば、それが金銭に換算できるかどうかはとにかくとして、彼氏の悲しかりし結婚生活の日々については同情がもてるのである。彼を嫌った夫人に比べれば、そして身辺に味方のいる夫人に比べれば、彼の心事に同情がもてるのは当然だろう。
 夫人はいささかヒステリー
前へ 次へ
全39ページ中10ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング