的でいらせられるらしいが、一人ぎめの人生観が硬化状態にあって、ユーモアを解し、市井の人情を解する柔軟性がない。自分の殻を破ろうとしたり、人を理解しようとするところが足りない。すでにコチコチにかたまって発育のとまったところがあるようだ。
だいたい御婦人の多くは結婚すると婚家の風にコチコチにかたまり易いものだ。もうそうなると、婚家以外のところでは通用しないような発育の止った状態になるが、婚家に通用する限りは、婚家にとってはよろしいわけだ。
ところがこの夫人は、結婚に先立ってすでにコチコチに殻ができて発育の止った硬化状態を呈している。こういう夫人と結婚し、そッちの家へ住みこんだクリーニング氏は、苦しかりし日々であったろう。
クリーニング氏の義兄がすこし酔って夫人に向い「男のバカと女の利巧はちょうど同じだ、生活力は男にかなわないのだから良人を大事にしろ」「亭主の好きな赤烏帽子という意味を知ってるか」と、云ったそうだ。こんなに侮辱されてるのにクリーニング氏が何も云ってくれなかったからさびしく思った、という夫人の理解力の硬化状態の方がさびしいねえ。
これは侮辱じゃありませんねえ。むしろ義弟
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