の新夫人たる人への愛情が主たるものです。市井人のかなり多くは自分の弟だの義弟などの新夫人たる人にこれ式の愛情で新婚のハナムケの言葉としがちなものですね。それにとかく酔っていると、特に、こんな表現をしがちなものだ。つまり市井人というものは、酔いっぷりや、酔って言うことが概して似たりよったりのものですね。巷間いたるところにこれ式の酔漢の愛情を見かけることのできる性質のもので、当時二十九という小娘とちがって立派な成人でありながら、ありきたりの市井の人情風俗に知識も理解もないのが淋しいねえ。
彼女の姉ムコ氏の証言によると、彼女は神経質で、気に入らない時には姉ムコ氏の顔を見るのもイヤだという程だったそうだ。ツキアイにくい女なんだね。
結婚直後クリーニング氏が下痢したので、彼女は感染してはまずいと板の間にフトンしいてねたそうだねえ。衛生思想の行きとどいたところは実に見るべきであるけれども、亭主が伝染病になった時にも真にカイホウする者はその妻女である、という、これは規則や法律ではなく、単なる市井の通俗人情にすぎないけれども、かかる通俗人情が完璧にそなわらない純粋理性的細君というのに対しては、その
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