の有無というようなことは結婚の支障となるかも知れないが、童貞であるか、ないか、第一、鑑定の仕様がない。しかし、ここに、お金持の姫君の聟たらんことを一生の願いとして日夜イナリ様に願をかけ親も息子も茶だち酒だちして学を修め芸を習いひたすらに良縁を待ちこがれているケナゲな一族があったとします。念願かなってお金持の姫君へ聟入りできたが、哀れにもあんまり気がはりつめたか翌朝から下痢を起して、姫君にいやがられ、再び同衾《どうきん》を許されなくなってしまった。そこで離婚訴訟となったが、かく戸籍に傷がついては、男は再び金満家へ聟入りすることができない。そこで失われた童貞に対して慰藉料請求となった。なるほど。こういう時には問題だね。童貞の値段は大アリかも知れん。
 このバカモノめ! 男のくせに自分の腕で食べようとせずに、金持のムコを一生の念願とするとは何事か! と叱るわけにもいかないね。男子たる者は金持のムコを望むべからず、という規則があるわけではない。聖賢の戒めの中には多少似た意味のことがあるかも知れんが、聖賢の戒めが凡夫の生活を律しうるなら、天下に法律などの必要はありませんさ。
 原告のクリーニング
前へ 次へ
全39ページ中7ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング