東京地方裁判所民事第一部、裁判官、安武東一郎)
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この判決に対して二三反対の言葉を新聞紙上で見た記憶がある。誰か女の人の側で、男女同権にもとるという意味の反対があった。男の貞操も認め男の子にも慰藉料をやるのが同権にかなうという意味であった。女の子ばかり貞操を要求されちゃかなわんというフンマンでもあり、よって男の子にも貞操を要求し欲しけりゃお金ぐらいくれて追んだしてやらアというケナゲな精神であるが、自分でお金を稼いでシコタマ握っている女の子がタクサンいるとは思われないが、どこから慰藉料をひねりだすツモリやら、みすみす損をなさることはありませんな。
この判決は妥当であろう。裁判というものは理想にてらして行うものではなく、現実に立脚してやるものだ。裁判を理想にてらし、たとえば男女同権の精神にもとづいて、現実を無視してやったら、いろんな痛快な判決はできるだろうけど、その後始末がつかないでしょう。男の子は喜び勇んで我も我もと慰藉料を請求したいにきまっているが、女の子は払ってくれないね。
日本の現実で考えて、まア大体に於て男の貞操にはたしかに値段がありませんな。性病
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