に豊富でありすぎるよ。そういう言葉は一ツでよいのだ。ただ「アリガトウ」さ。そして常にそれに相当の報酬をすべきである。何も靴ミガキに百円やることはないですよ。宿屋の番頭に千円もにぎらせることはないですよ。バカバカしい報酬はやるもんじゃない。
 物事はその価値に応ずべきで、労力もむろんそうだ。物質を軽んじ、精神を重んじるという精神主義によって今日の社会の合理的な秩序をもとめることは不可能だ。労働に対する報酬が生活の基礎なのだから、労働に対して常に適当に報われるという秩序が確立しなければ、他の秩序も礼儀も行われやしない。仕事に手をぬくような不熱心な働きには、それ相応の安い報酬でタクサンだ。よく熟練し、さらにテイネイでコクメイで熱心な労働に対してはそれに相当する多くの報いをうけるのは当然だ。報酬は義理でも人情でもヒイキでもない。常に適正な評価に従うべきだ。それが今日の秩序の基本をなすべきものですよ。その秩序が確立すれば、仕事への責任もハッキリする。その責任に対して物質的な賞罰もハッキリすべきものである。
 拾得物への報酬、一割か二割か知らないが、こういうものはどこに規準を定めても合理的な算定な
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