ようだ、という思いにもさせられるのである。やりきれない暗愚、我利々々の世界である。この手紙の中でせめてもの救いは、農村からの中傷にも拘らず、この青年の勤める本社が彼をクビにしないということだけだ。
人のフンドシを当てにする思想は、最大の実害をもっているね。汝の欲せざるところ、これを人に施すなかれ、ということが形式的にでも通俗なモラルになると、世界の様相は一変して、なごやかになるね。
再軍備が必要だという。そういう必要論者だけが兵隊にまずなって、まっさきに第一戦へかけつけることさ。村の発展は青年のギセイ的精神にまつ必要はない。ギセイ的精神の必要論者がまずギセイとなって、われ一人せッせとやりなさい。二宮尊徳先生がそうだったでしょう。その奉仕が真に必要ならば、やがて人がついてきますね。来なくっても、仕方がないさ。真にギセイ的奉仕が必要だと信じた人が、まず自分のみ行うのさ。人に強制労働を強いるのはナホトカからあッちの方の捕虜だけの話さ。
よく働くことによってその人を尊敬し、それによく報いるという習慣が確立すると、社会は健全になるね。
日本には人の労に報いる言葉のみが発達し、多種多様、実
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