の酔っ払いの為し得ない放れ業は数々これを行い、諸方に勇名をとどろかしたものであるが、こういうバカげた大勘定をつきつけられたことはない。
 浅草の浮草稼業の役者仲間に、ハライ魔という言葉がある。私などがその筆頭なのである。酔っ払うと者ども続けと居合す男女をひきつれて威勢よく飲みまわり、威勢よく勘定を払う。翌朝のことは云わぬが花で、とにかくその時は威勢がいいや。ジャンジャンのみ食らいジャン/\払う。人に払わせない。こういう熱狂的人物を払い魔というのである。浅草人種はうまいことを云うよ。ああいう落伍者地帯には、常にピイピイしながら人に勘定を払わせない怪人物が常にあちこちに棲息するのである。お金持ちの集りには、こういう怪人物は棲息していないものさ。
 しかし私のような性コリのないバカ者でも、十名ひきつれて飲みまわっても一晩に七万四千七百円なんてことは、とても、とても、有りうべからざることだったね。たった一軒それに近いのが九段の例の待合であった。
 しかし、この新興喫茶のマネジャー氏の言は痛快すぎるね。こう痛快に云えたらさぞ気持がよかろうさ。今どき客の方から「遊ばせてくれ」と頼む人物がいるような
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