くないね。私がこのような経験に会ったのは、待合だね。九段にひどい待合が一軒あった。客が風呂にはいってる時、ポケットやカバンの中を改めて所持金みんなしらべるらしく、いつも持ってる金額のうち自動車質が残る程度の大勘定をつきつけられた。私の友人達もみんなやられて、大勘定に悩まされたが、お客の方はほかへ行けば済むことだから、誰も行かなくなった。しかし我慢できないのは土地の同業者で、他の待合と芸者連が結束してダンガイし、この一軒の待合がぼるために九段全体が客を失い悪評を蒙るに至っていると満座で吊し上げを受けたそうだ。いかにぼッたか分るのである。
 三業組合というようなところでは、待合芸者結束してボリ屋の一軒を吊し上げるという壮挙を敢行して土地の自粛をはかることはありうる。なぜなら、待合も芸者もその土地についており、お客もその土地につくもので、土地の繁栄は業者全体の繁栄に関係するから、一軒のボリ屋によって土地についた客を失うことを怖れもする。
 しかし、カフェー、新興喫茶、それに女給というものは、こうではないね。女給はその土地にもその店にもついてやしない。転々とどこへでも身軽に行けるのだ。だから、
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