のものが美であるか、ないか、そういうことと問題は別個じゃよ。
たしかに彼氏は軽卒であり、楽天的でありすぎた。しかし、アロハをきるとはいえ、マーケットのアンチャンとちがって、彼はそれまで女というものを知らず、金瓶梅もチャタレイ夫人すらも読破した形跡がないのだね。結婚初夜に新妻をモテナス何らの技術にも不案内であったそうだ。
中山しづ女の答弁書に曰く、
「羽山はなぜか夫婦の行事をなさず特に新婚の楽しみなるものをなさしめなかった。しづは処女にして、夫婦の行事がいかなるものか、いかにして行うかを知らず、自ら要求する術も知らず、むしろこれらの事柄は男子たる羽山が積極的に指導し愛撫すべきことは争うべからざる公知の事実である。それにも拘らず原告は故意にそれらの指導をなさず、温く抱擁することもなく、いわば木石の如き態度で新妻に接しもって処女を犯した」(下略)
名文だね。争うべからざる公知の事実だ。そうだ。争っちゃア、いけねえかな。パンパンを取りしまるとは何事だア! チャタレイ夫人を起訴するとは何事だア! だから一人前にアロハなんか着やがってるくせに新婚初夜に木石じゃないか。もって処女を犯す、か。ど
前へ
次へ
全39ページ中14ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング