うも実に、カストリ雑誌の唄い文句じゃなくて、レッキとした訴訟の答弁書なんだからね。新婚初夜の行事に、処女を犯すという表現は、カストリ雑誌以外ではチト無理でしょう。もっとも、理窟で云えば、初夜は処女を犯すものには極っているが、そのために大目玉をくろうことは、きかなかったね。
こういう世界的な大文章で答弁するというのは、要するに、相手を反撃する事実自体に反撃力がそなわっていないせいだろうね。要するにさ。原告たるかのアロハはあまりにも経験深く老練にして、初夜に処女たる被告を混乱懊悩せしめ、神経質にして潔癖なる被告の信頼を失うに至りたり、というような文章だったら、チットモ大文章というものじゃなくて、とにかく語られた事実の中に真実の力量がこもっているのさ。
アロハ氏の曰く「時に媚態を呈して奥サンに懇願した」とね。アッハッハ。しかし、アロハ氏の苦心察するに余りあり。席を別にして板の間に寝られたり、彼氏の新婚生活は日夜に不可解の連続で、まったくどうも神経衰弱気味にもなろうというもの、彼氏が慰藉料を請求したい心境になったのは、同感せざるを得ないのである。
しかしさ。判事氏の云う如く、たしかにアロ
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