るものではない。人間の気持はたとえ十六の少年でも、そう単純で、ハッキリしたものではあり得ない。
しかし、自殺ということを一応言っておきながら、ナイフを自殺用の道具と云いたてずに、護身用と云っているのは、子供らしく正直な良いところかも知れない。もっとも殺人用と解されるのを怖れて、それにやや用途の似ている自殺用と言いたくなくて護身用と云ったのかも知れんし、近ごろは自殺といえばアドルムであるからジャックナイフでも自殺ができるということをこの節の少年は気がつかないのかも知れんな。街でポンピキによびとめられる。この辺も、汚いけれども、なんとなく童話の世界。北風の中の遍歴という詩情がないことはない。
昔の女の子が家出すると、悪い奴が駅や道に待ちかまえていて、呼びとめて、だまして売りとばしたものであるが、ポンピキが男の子をひッぱるというのはあまり聞かなかった。今では、こういうところは大人も子供も同じこと。自ら吉原門内へ踏み入ってならとにかく、ただの盛り場の賑いを歩いただけで、子供がポンピキによびとめられる。近代派のポンピキはじめパンパンにしてみれば、お金さえ持ってればお客だという実質精神。もっと
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