うね? この手記にある限りで判断すると、殴られた婦人の一家はその日はまだ殴られたことで税務署へねじこんではいないのである。応待した良人は、とにかく今日は自分は亢奮しているから後日にしてくれと言っているから、この日彼がすすんで税務署へでかけている筈はないのだ。
もっとも彼は警察には訴えたが埒があかなかったと記してある。すると、警察が税務署へ電話でもしたのかも知れないが、事実の調査というものは先ず警察のやるべきことで、当事者自身がやるべきことではないだろう。警察が自身調査もしないで、当事者に電話をかけて、彼自らに調査をゆだねるようなことが有りうるのだろうか。
誰から話をきいて何を調査に来たのか、まことにどうも雲をつかむようである。
自分の方に落度がなくて、むしろ公務執行妨害だというのがまた面白い。公務執行妨害という大そうな罪があるなら、例の事実調査の直後にやるのが然るべきようだが、先方から捩じこまれるまで問題にならない悠長な罪があるものらしいや。どういう点が公務執行妨害になっているのか、そこのところが知りたくて仕方がない。
殴ったのか、殴らないのか。それはどうでもいいや。たとえば税
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