務署の言うが如くに、この婦人が逆上してフラフラして勝手にぶつかって怪我をしたにしても、彼女が逆上するのは当然。女一人の留守宅へきて戸のガラスを外しはじめれば、取りみだすのは当り前だ。躍りかかって首をしめて女の金歯を抜きとる方がもう少しユーモアがあるかも知れん。おもむろにカミソリをとりだして女の髪の毛をジョリ/\と丸坊頭にしてしもう。これをカツラ屋に売るとガラス四枚ぐらいの値段にはなるかも知れん。平安朝の昔に、一人の百姓が婚礼のフルマイ酒に窮してお寺の坊主から二斗のお酒を借りた。返さないうちに病気で死ぬことになったので、坊主が枕元へきて、コレお前や、借りたものを返しもしないうちに死ぬなどとはいけませんよ、死んだら牛に生れ変って私の寺へきなさい、四年働くと借りたものを返したことにして許してあげるから。百姓は仕方がないから、泣く泣く牛に生れ変って四年間働いて、どうやら成仏させてもらったそうだ。平安朝の昔は坊主も特権階級だった。百姓の両腕をもいでお寺へ持って帰っても、両腕が毎日野良をたがやすことができやしないね。牛に生れ変らせて四年間コキ使って貸しを取り返したとはアッパレなものだ。
しかし、
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