のか、私には見当がつかないことだ。二週間外へも出られなかったという婦人の顔の怪我も治ってしまえば本当かウソか医者にもかかっていないから立証の余地がない。目撃者の証言がどこまで事実認定の証拠たりうるか、言葉の証言だけで他にヌキサシならぬものがないようだから、素人目には、この法律的な判断はどんな結論になり易いのか、とても見当はつけられないのである。
しかし、この事件が一税務署員の悪質きわまる行為から起っているのは疑う余地がない。表戸のガラスを差押えの品目に加え、それをはずしにかかるとは呆れ果てたことである。殴ったの殴らぬよりも、こッちの方がもっと悪質きわまる弱い者イジメであろう。泥棒の心配はしなければならぬし、真冬の寒風は吹きこむし、不安や健康を損うような破壊を置き残して、その程度の差押えの仕方については悔ゆべきところもないらしい日常茶飯事らしいから、言語道断、まったく鬼畜の行為が身についているのである。法律がこれを罰しうるかどうかという問題などは下の下であろう。
個人の責任に於て威張るのはまだよろしいが、権力をカサにきて無道をはたらき弱者をイジメル役人は困りもので、国民たちの一番大切
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