定はやはり十五万円余りで、税金の滞納額二万七千円に対して、去年の九月初めに、火鉢、茶ぶ台、衝立の三点を差押えられてしまいました。
 それから一月ばかり経った十月の十三日、丁度主人の留守中に、四谷税務署の二十二三の若い方が、人夫三名とトラックで差押えの引上げに見えました。
 その態度の横柄な事といったら全く言い様がありません。余り不体裁なので親類から借金して新しく入れた表のガラス戸をじろ/\見ていましたが、入って来るなり「今日は……大分儲かったなあ」と、こういった調子です。そして、早速仕事にかゝりましたので私も茶ぶ台を上り口まで運んで手伝いました。
 火鉢は重くてとても私の力では運べませんのでお願いしました。税務署の方の態度が余り乱暴なので、私も失礼だとは思いましたが「なるほどその火鉢は差押えになったでしょうが、まさか灰や炭火までは差押えになったんではないでしょう。私達貧乏人にとっては灰を買うんだって大変ですから、灰はそこの土間にうつして行って下さい」と申しました。税務署の人はその通りにしましたが、辺り一面|灰神楽《はいかぐら》になったので、私は布切れで上り口をはたきました。
 それから
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