かに行き場も経験もないのでただ涙にくれているような夫人にくらべれば、当然この娘の生涯の方が悔いなきものだし、そういう計算をすれば、各人各様いろいろの答えを出すべき性質のものであろう。踏み切った時が運命の岐れ目かも知れない。素質があっても、必ずそうなるというものではないだろう。しかし、この娘の場合に於ても、智脳の低いのが、運命をひらき、智能相応の素質だけ呼びさましているようだ。とにかく悧口になることは大事なことだ。誰でも一応その人間の限界までは悧口になる素質があるのだから。
第三話 税務署員に殴られた婦人の話 竹内すゑ(四十四歳)
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私は東京の新宿区に住み、十八を頭に四人の子供があり、主人は経師屋《きょうじや》です。
ところで、税金で頭を痛めるのは何処様でも同じことでしょうが、税金ではほんとに身を切られるような想いを致します。昭和二十四年度の所得額は六万円と申告して、その一期分と二期分、おの/\千三百八十九円を納めました。税務署の方ではそれを十八万円と更正決定して来ましたが、実収入はとてもそんなにありませんので、異議申請をしました。すると、その決
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