、とうとうお手伝いの仕上げを完了するとは恐れ入った低脳の両親である。相当の社会的地位にあり、一通りの学問はあるのだろうが、何を学んできたのかしらん。人間の心理をといた小説をよんでも、それぐらいの子供の心理に通じるのはヒマがかからない。教育をうけない労働者でも、自己への省察や周囲の事実からの無言の教訓だけで、一通りの心理通になっているのは自然なのだが、男女社員を率いて長と名のつく人物で、こう低能なのは不思議でワケがわからない。
 映画も見たいし、ダンスもたのしいし、銀ブラも、レストランをおごってもらうのも愉しいという娘の心境は非難すべきところはない。そういうことがキライ、家事が好きだッたり、読書や学問が好きだという人にくらべて、彼女の方が道徳的に低いということにはならない。好き好き、趣味の問題である。私が女房を選ぶんだッたら、家事が好きだという型よりも、遊びの好きな型の女を選ぶ。その方に魅力をひかれるのだから。これも好き好き、趣味の問題で、あげつろう性質のものではない。
 娘が多少の自由を欲した気持は当然で、八時という門限をきめて反逆のお手伝いをしていた両親の低脳ぶりの方が、バカバカしく
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