て話にならないのである。罪悪感を他に転嫁する口実が成りたてば、子供は潔癖好きのブレーキをすてて、好奇心の方へ一方的に走りたがる。そんなに疑るなら、疑られるようになってみせるわ、というようなインネンのつけ方は子供には最もありがちな通俗なものだ。誰の胸中にも善悪両々相対峙しているのは自然で、その対峙を破って悪の方へ一方的に走りだすのは当人にも容易ならぬ覚悟を要するものであるが、それを最も簡単に破らせ易いキッカケとなるのは、親がそのことで疑りすぎてヤケを起させた場合。娘の方もいくらか悪いところがあるようだ。なぜならヤケまぎれに一方的に走りだす口実を得ても、実際にそれをキッカケにして踏み切る娘よりは、まだ踏み切らない娘の方が多いだろうからである。しかし親の低能が、それ以上、はるかに甚しいのは当り前のことだ。
いっぺん踏み切ってしまえば、あとは男次第。男が女を愛してくれて、両親との生活よりも楽しい生活を与える力があれば、娘はそッちに同化する。踏みきった以上は、それが当り前で不思議はない。男が詐欺の常習者と分っても、お金に不自由なく、女にゼイタクをさせ、可愛がってくれる以上、その生活に同化しても
前へ
次へ
全36ページ中24ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング