ことだ。ナイフが何万本あっても足りやしない。舌が三枚も五枚もある化け物など政界にいるが、そんなのも大した化け物ではない。十六年も生きていればオカマ以上の実害ある大化け物と交渉のなかった筈はないのだが、オカマには気がついても大化け物には気がつかないとは、頭の悪い少年だ。
 世間には、大人の世界に無智不案内な子供が純でスレていなくて鷹揚だというような見方もあるのだが、何事によらず知らないということは賞讃の余地がないようだ。知ることと、行うこととは違う。利口な人間は知りたがるし、知っていて正邪を判じる力があり、敢て悪を行わぬところに美点はあるかも知れないが、単に知らぬということは頭が悪いというほかの何物でもなく、長じて知るようになると、純変じてどんなスレッカラシになるか分りやしない。純などゝいうのはつまらぬ時間の差で、しかも甚しく誤差の起りやすい要素をふくみ、わが子に対してそんな判断で安心していると、長じて忽然と妖怪化して手に負えなくなるのである。
 満十六といえば、理解力はほぼ大人なみに成長しかけているものだ。この少年の人生の理解力は低く、いささか低能で、辛うじて映画によって人生を学んでい
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