し自制を失うことができるなら、という気持も必ずあるものだ。それには親に無実の罪を疑られ、そのことで口論してヤケを起して飛びだすような時が最上の機会であろう。なぜなら、とにかく親の圧力が最大のブレーキだから。ブレーキに押しつけられている願望は、なんとかして自然に、又は自然らしく、そして罪を他に転嫁しうる堂々たる口実を得てブレーキを外したいとひそかに待っているのだから。そういう少年少女の気持を理解できない親は子供を却って早く間違いに走らせる。第二話の娘の場合がそうである。子供が親に罪を転嫁すると同様、子供の親は厳格という型にはまった常識的な倫理観に安易にもたれて、自己の無理解、無智無能を転嫁している。子供は口実として他に罪を転嫁しても実は罪の意識に苦しむが、親は公定価格の修身の教えにもたれ、人からも自分からも罪を責められない。
さて少年は男の案内でアパートへ行く。部屋に男の上衣が吊るしてあるから怪しいと気がつきはじめたが、寝てみると本当に男だったので、ナメられてたまるものかと便所へ行くフリをして廊下でジャックナイフをひらいて、男娼を刺した。ブスッと手ごたえがあって変テコな声をだして逃げよ
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