みはないからである。

          ★

 巷談師というものは、所詮高座の道化者で、オナグサミに一席弁じているにすぎないのである。天下国家を啓蒙しようというようなコンタンが多少でもあれば、大いにコマメに動きもしようが、そういう考えがミジンもないから、手頃な題材を見つけて、勝手放題な熱をふく。適当な(というのは、面倒なことのいらないという意味もある)題材に窮して、奇妙な探訪などに浮身をやつすようなことを数回つゞけたりしたが、これは毎月必ずやらなければならないというムリも一因している。
 私の巷談の材料になりそうで、ならないのは、政治である。なぜかというと、裏があって、それに通じない人間には分らないからである。そこへ行くと、裁判の方は、それほど裏というものがない。たゞ法廷へもちだす前に検事が被告を訊問しているイキサツがハッキリ分らないだけが難点である。こういうものも公開したらどうだろう。
 政界、官界、財界などの裏面のカラクリというものは、巷談のタネではなくて、「真相」というバクロ雑誌などの対象だ。現在の日本のようなカラクリの多いところでは、大いにバクロ雑誌があった方がよろしい。「
前へ 次へ
全17ページ中10ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング