ない課題である。そのうちポツポツ見聞をひろめ、一通り見聞して後に筆を執るべき性質のものだろう。
 私は然し目下のところ、アプレゲールという言葉を好まないのである。そういう新人が現れているとは思っていないからである。山際青年や左文の事件について考えても、むしろ私には、山際にナイフを突きつけられて金を強奪された三人の旦那の方が、戦後派的ではないかと思うのである。
 大の男が三人もいる自動車の中へ、ナイフを持って乗りこんで二百万円奪うつもりの山際はトンマな犯人で、どう考えても、未遂に終るのが当然だ。東京のマンナカで二人降し、一人降しして、降された旦那方に捕える処置ができないのもフシギ。まるで捕えて下さいと頼んでいるようなトンマな犯人をまんまと逃しているのである。
 すくなくとも、戦争に負けるまでは、こういうノンキな旦那の存在は珍しかったろうと思う。職務に対する責任というものを持っていた筈だからである。
 しかし、自分の金ならとにかく、人の金をまもって負傷するのはバカバカしいという考えは、新しいものではない。バカなケガをしたくないのはお互様で、人間の本音は昔からそういうものだ。
 けれども、敗
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