ン・ダイビングというものを、みなさん知ってますか。
男の子や、女の子が、二人か三人で、一しょにダイヴィングするのである。にわか仕込みとみえて、その場でうち合せて跳びこんどるから、なかなか、そろわない。水へつくころは二人の距離がだいぶ差があるし、回転するにも、そろったことが殆どない。
それでも、結構である。とにかく、日本の水泳選手が、ショーの精神をもって、見物人をよろこばせようと心がけるに至ったのだから、日本の水泳も変ったのである。
もッとも、跳び込み選手の中に、柴原君がまだ健在であったが、彼は戦争前からの古い選手である。水泳というものは他の競技にくらべて選手の寿命が短いから、彼のほかに戦争前からの選手は見当らない。彼はずいぶん古い選手のはずだ。ダイヴィングといえば、むかし、立教の原君というのが、なんでもかんでも逆立ちして跳びこみたがる先生で、フンドシ一つでいつもプール際をうろうろしているお行儀の悪い選手であった。彼はいつまでも上達しなかったが、いつまでも跳びこんでおり、たぶん柴原君も一しょに跳びこんだことがあるだろうと思う。
昔の柴原選手は今のようではなかった筈だが、彼は今やビ
前へ
次へ
全28ページ中25ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング