構えなど、ありやしない。自分がスポーツをやる当人でもないのに、全然殺気立っている。
日米水上の観衆はノンビリしていた。ブウブウ言っていたのは、私ぐらいのものだ。なんしろ私は暑いんだ。夜間水泳。誰だって涼しいと思うだろう。おまけに雨がふってるよ。それで涼しくないんだね。人いきれなのだ。上からは雨がふり、下からは汗がわき、結局暑い方が身にこたえるという、そういう場合があるんだそうだ。
日本人はレース開始の一時間前までに見物席についておれ、さもないと見物できん、という。この理窟が拙者には分らないよ。
レース開始の前までに席につけ。それ以後は入場できん、というのなら、話はわかる。演劇演奏開始後の入場おことわり、という高級な劇団や交響楽団は日本にも在ったが、一時間前までに席についとれというのは、どういうコンタンであるか分らない。
しかし、見せてくれないというから仕方がない。一時間半前に行くと、もう殆ど満員だ。みなさん、たのしそうである。コカコラなどをのんでいる。ブウブウ云ってるのは、私だけだ。
古橋が千五百を棄権したと云っても、別に怒ったような人もいない。マーシャルと橋爪がとんでもなく
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