は、私の勇名なりひびいているところで、古い子で私を知らぬパンパンはいない。この入院中、病院の先生たちをムリにひッぱりだして、曾遊《そうゆう》のパンパン街へ酒をのみに行った。パンパンは私を見ると、みんなゲラゲラ笑いだすのである。私がかつて妙テコレンな病気の折に、ここをせッせと巡礼して、他の勇士の為しがたい多情多恨の業績をのこしているからである。向うにしてみれば、奇々怪々、しかし奇特なダンナではあるよ。だから、人気があるな。
 ここは鳩の町などゝは又ちごう。三ツのアパートを改造して、昔は一部屋ごとに一人の女が喫茶店を開業していた。今は喫茶店はやっておらんが、客はアパートの中を歩いて、一部屋ごとの女をながめて巡礼する仕組になっている。
 武蔵新田と東京パレスの似ているところは、そこだけなのである。女はアパートの一室をそっくり占めているから、部屋の点では、武蔵新田の方がいい。しかし、その本質に於ては雲泥の相違があるし、新田は要するに、ただのパンパン街にすぎない。
 東京パレスは、今までのパンパン街と本質的にちごう。昔の吉原にもあったが、京都も伏見|中書島《ちゅうしょじま》など、ちょッとしたダン
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