うもタダゴトならぬ気配である。
 見物人の一人としてこの気配の中に立ちまじっていても胸騒ぎがするぐらいだから、経営者側には、これが頭痛のタネなのは当り前だ。GIはキャア/\喚声をあげ、女の子のハダをなでたり、一心同体のうちとけぶりを現すが、日本人の観客は拍手ひとつ送らないのである。これに気がつくと凄味がある。音もなく、反応もなく、ただ目の玉が光っているのである。タメイキをもらすわけでもない。実にただ黙々と、真剣勝負のような穏かならぬ静かさである。
 そこでかの浅草小劇場の社長先生が考えたのである。GIだけ人種がちがうというわけはない。日本人だって酔っ払えばGIなみなハデな喚声をあげる仁もある。素質がないわけではないのだから、こっちのやり方ひとつで、日本人をGIなみの見物態度に誘導できないはずはない。
 そこでストリッパーを踊りながら客席へ降ろすことを考えた。踊りながらタバコをすう。口紅のついたタバコを見物人にさしあげる。
 ところが、もらってくれないのである。三人のうち二人は身体をねじむけて、ソッポをむいてしまう。一人はわざと渋々うけとり、まずそうに吸ってペッペッとやる。そうかと思うと
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