す。女の方が威張っておりまして、情夫への口のきき方のひどいこと、きいていられないあさましい情景で、腹のたつときがありますな」
「給料は」
「ワンサで、日に五百円。一流の子で二千円から二千五百円ぐらいのようです。ところが奇妙に、踊りのうまい子はハダがきたない。必ずそうきまっているから、ジッと見てごらんなさい。よく見るとシミがある。フシギにそう、きまったものです」
この御当人の方がフシギであるから、お言葉を真にうけていられない。
案内されて、浅草小劇場へのりこむ。おどろいたね。
焼跡にバラックのミルクホールがあったと思いなさい。それがこの小屋の前身なのである。そこへ舞台をくッつけて浪花節をかけてたのがつぶれたあとへ、この社長氏がたてこもったのである。彼は骨の髄からの浅草狂で、軽演劇とバラエテ、浅草の古い思い出が忘れられないのである。
見物席の横ッちょに音楽と照明席をとりつける。ミルクホール、浪花節、レビュウ小屋と、たてますたびにデコボコにふくれる。ツギハギだらけのデコボコである。はじめは一日に五十人という悲しい入りが何ヵ月かつづいたそうだ。
役者も踊り子も食えない。二日ぐらいずつ
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