滴もいただけないのでして」
社長は辞退して、おもむろに上衣をぬぎ、満面に微笑をたたえて、
「浅草小劇場は家族的でして、私が社長ですが、社長も俳優も切符売りも区別がないのですな。私が切符の売り子もやる。手のすいてる子が案内係りもやるというわけで、お客様にも家族的に見ていただこうという、舞台は熱演主義で、熱が足りない時だけは、私が怒ることにしております。ストリップは専属の踊り子が十二名おりまして、数は東京一ですが、目立った踊り子はいません。しかし、ストリップ時代ですな。浅草におきましては、日本趣味がうける。和服からハダカになる。これが、うけます」
「踊り子の前身は」
「それぞれ千差万別でして、女子大をでたのが居たこともありますが、概して教養はひくいですな。ところが、ストリップの踊り子はハダカより出でてハダカにかえる、と申しまして、相当の給料をかせぎながら、常にピイピイしておる。ストリップの踊り子に後援者はつきません。当り前のことですな。自分の女をハダカにして人目にさらすバカはいません。踊り子は自分で男をつくる。男の方を養ってる。そこでストリップの踊り子の情夫は最も低脳無能ときまっておりま
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