の方をやった。これは大失敗が当然で、去年彼女に会ったとき、
「淀橋さんの方でしたら、きっとよかったでしょうね」
と言っていたが、淀橋太郎の方でもダメだったろうと私は思う。因果物は、そう長つづきはするはずがない。阿部お定自身はダテや酔狂でなく役者になりたがっていて、芝居をしこなす自信があったようだし、相当芸が達者だったという話であるが、見物の方は因果物としか受けとらないから、どうにもなりやしない。
「タロちゃんをヘソの元祖とみこんで、わざわざやってきたのだが、さりとは残念な。今日は一日ストリップショオの見物に東京をグルグル駈けまわってきたのだよ。最後に浅草でタロちゃんに楽屋裏を見せてもらいたいと思ってね」
「それでしたら、都合のいい人が来合してはりますわ。隣りの部屋にヒルネしてござるのは浅草小劇場の社長さんや」
ヒルネの社長はニヤリニヤリとモミ手しながら現れた。イヤ、どうも。さすがに浅草。奇々怪々なる人物が棲息しているものだ。相当な御年配だが、ストリップの相棒の男優が舞台できるのと同じハデな洋服を、リュウと又、ダブダブと、着こんでいらッしゃる。
「さ、ビールを、一ぱい」
「ヤ。私は一滴もいただけないのでして」
社長は辞退して、おもむろに上衣をぬぎ、満面に微笑をたたえて、
「浅草小劇場は家族的でして、私が社長ですが、社長も俳優も切符売りも区別がないのですな。私が切符の売り子もやる。手のすいてる子が案内係りもやるというわけで、お客様にも家族的に見ていただこうという、舞台は熱演主義で、熱が足りない時だけは、私が怒ることにしております。ストリップは専属の踊り子が十二名おりまして、数は東京一ですが、目立った踊り子はいません。しかし、ストリップ時代ですな。浅草におきましては、日本趣味がうける。和服からハダカになる。これが、うけます」
「踊り子の前身は」
「それぞれ千差万別でして、女子大をでたのが居たこともありますが、概して教養はひくいですな。ところが、ストリップの踊り子はハダカより出でてハダカにかえる、と申しまして、相当の給料をかせぎながら、常にピイピイしておる。ストリップの踊り子に後援者はつきません。当り前のことですな。自分の女をハダカにして人目にさらすバカはいません。踊り子は自分で男をつくる。男の方を養ってる。そこでストリップの踊り子の情夫は最も低脳無能ときまっておりま
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