、善良ではあるが、性格的には、ひがみ屋で、女性的にひねくれたところがある。H氏が、又、最も女性的な豪傑タイプで、女性的な面が衝突し合っているのである。吉井君も編輯にはまったく無能で、どっちに軍配をあげるわけにもいかないが、部下を心服させることができないのは、H氏の不徳のいたすところである。
 たのまれたからといって、特にたのんだ方に味方もできないが、H氏をよんで、
「あんたの部下はみんなO氏の弟子じゃないか。あんたがO氏のスイセンで編輯長になれば、みんながあんたを好意的にむかえるはずであるのに、心服させることができないのは、よッぽど不徳のせいだろう。そう思わんか」
「そう思う」
「あんた下宿の女(吉井君とジッコン)と関係してるね」
「そうだ。女房を国もとへおいてるから、こうなるのは当然だ」
「当然であろうと、あるまいと、そんなことは、どうでもいいや。自分の四囲にどういう影響を与えるか、それを考えて、手際よくやるがいいや。あんなケッタイな四十ちかい女に惚れるはずはあるまいし、タダで遊ぼうというコンタンで、部下の感情を害すとは、なさけない話じゃないか。遊ぶんだったら、金で、よその女を買いな
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