さい」
「金がないから仕方がない」
「社長が二人いるのは、変じゃないか」
「変だ」
「敵地へのりこむようにのりこんできて、反抗したい奴はでてこい、若い者にぶん殴らせる、なんて社長があるもんか。ぼくがこの雑誌に関係したのはY氏の窮状を救うという意味でたのまれたのだから、Y氏以外の社長ができたり、Y氏の立場を悪くするようなら、ぼくの一存でこの雑誌をつぶす。どうだ」
「その気持をなんとか組のなんとか氏につたえて、善処させる」
 その翌日である。
 H氏となんとか組のなんとか氏が同道して拙宅をたずねた。
「お前さんはオレがよぶまで上ってくるな。荒っぽい音がするかも知れないが、下にジッとしておれ」
 といって、女房を下へやった。なんしろ、反抗する奴はでてこい、痛い目にあわせてやる、という一人ぎめの社長や、柔道五段を鼻にかける編輯長のオソロイだから、タダではすみそうもない。私も腹をきめて、二人に会って、
「O氏に会って、たしかめたところでは、あんたに二十万円だしてもらったのは社長になってくれという意味ではないと断言していた。あんたが思いちがいをしたのは仕方がないが、だいたい社員に向って、反抗する奴
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