こうなってからは、碁席の方へも、乾分のインチキ薬売りや、そのサクラや、八卦見《はっけみ》や療養師や、インチキ・アンマや、目附の悪いのがくるようになり、彼らが昼間くる時はカリコミがあった時で、一時しのぎに逃げこんでいるのだから、ソワソワと落付かず、碁はウワの空で、階下でゴトリと音がするたび、腰をうかして顔色を変える。
 私はこの連中から、花札や丁半のインチキについて、実地に諸般のテクニックを演じて見せてもらった。こればかりは実演して見せてもらわないと分らない。指先の魔術である。寄席でやる奇術師のカードの魔術、すくなくとも、あれと同等以上の指先の錬磨がないと、インチキ賭博はやれない。札が指と手の一部のように、指の股に、掌に、手の裏に、袖に、前後左右、ヒラヒラ、クルクル、自由自在、目にもとまらぬものである。特に対面《トイメン》には全然わからない。当人の向って左側の者にだけ、シサイに見ていると魔術が分るから、ここには仲間をおかないとグアイがわるいようだ。
 私は麻雀については知らないが、見ていると、のぼせあがって、ひどく忙しく、やっている。まるで忙しくやらないと麻雀打ちのコケンにかかわるか
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