こともなかった。
私たちがそこを離れると、二十人ぐらいの群が私たちをとりまいて、グルグル廻りながら一しょに歩いてくる。
さては、来たな、と私はスワと云えば囲みを破って逃げる要心していると、いつのまにか囲みがとけて、彼らは、私たちから離れていた。
弁天様の前の公園へでる。洋装の女に化けた男娼が巡査と見てとって、
「アラ、旦那ア」
と、からかって、逃げる。うしろの方から、
「旦那のアレ、かたいわね。ヒッヒッヒ」
大きな声でからかってくる。
ベンチにパンパンがならんでいて、
「ヤーイ。ヤーイ。昨日は、御苦労様ア」
と、ひやかす。昨日、一斉カリコミをやったのである。それをうまくズラかった連中らしい。声をそろえて、ひやかす。行く先々、まだ近づかぬうちから、みんな巡査の一行と知っている。
私はふと気がついた。私たちは四人づれだったが、いつのまにか、五人づれになっているのだ。スルスルと囲みがとけたとき、そのときから、実は人間が一人ふえていたのである。クラヤミだから定かではないが、二十二三の若者らしい。私たちが立ち止ると、彼も一しょに立ちどまる。
クラヤミのベンチに五六人のパンパンが
前へ
次へ
全50ページ中46ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング