れにつづいて、コツンコツンと義足の音を鳴らしながら立ち去って行く。どこにいたのだろう。そして、どういう男だろう。光で照らされた輪の中には、この男の姿は見えなかったのである。
 巡査はそれには目もくれず、足もとの地上をてらして見せた。ルイルイたる紙屑。
「戦場の跡ですよ」
 立ったまま仕事するほどの慌ただしさでも、紙は使うとみえる。五十ぐらい紙屑がちらかり、それがみんな真新しい。この一夜のものだ。クツでふむ勇気もなかった。
 尚もクラヤミのペーヴメントを歩いて行くと、歩道に二三十人の男女が立っているところがある。その三分の二はパンパンだが、男もまじっていて、お客でもなければ、男娼でもない。この道ぞいに掘立小屋をつくっている人たちで、パンパンの営業とある種の利害関係をもっている人種だ。
 巡査はその人群れの隅ッこで立ち停ったが群れに目をつけているのではなく、何か奥のクラヤミをうかがっている様子である。
 私たちも仕方がないから立ち止る。場所が悪いや。入れ代り立ち代りパンパンがさそいにくるし、みんな見ているし、薄気味わるいこと夥しい。たたずむこと、三四分。
 警官身をひるがえしてクラヤミへか
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