少年だ。当人は自分を女優という。私は女優です、と云うのである。男の服装はしているが、心はまったく女であった。
私はこのヤマさんに惚れられて、三年間、執念深くつきまとわれた。私は錯倒した性慾には無縁で、つきまとわれて困るばかりだ。
しかしヤマさんという人物は実に愛すべき美徳をそなえ、歌舞伎という古い伝統の中で躾けられてきたのだから、義理人情にあつく、タシナミ深く、かりそめにもハシタないフルマイを見せない。
私につきまとうにしても、歌舞伎の舞台の娘が一途に男をしたうと同じ有様で、思いつめているばかり、踊りや長唄などの稽古にかこつけて私を訪れて、キチンと坐って、芸道の話をしたり、きいたり、しかし時には深夜二時三時に自動車でのりつけて、私が出てみると、ただ悄然とうなだれていたりして、こういう時には困ったものだ。そんな時には、ずいぶんジャケンに叱りつけたり、追い返したり、時には私が酔っていて、ひどいイタズラをしたこともあった。
深夜にやってきて、どうしても私から離れないから、男色癖のある九州男児をよびむかえ、私はそッとぬけだして青楼へ走ってしまった。そこから電話をかけてみると、ヤマさん受
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