は二三人でのんでる横へ、ドッカと坐ってのみだす。やがて話しかけて(話しかけないことも多いが)
「このオジサンに一杯」
といって、一杯酒をとりよせて、まア飲みねえ、うけてくんな、と押しつける。
うけなければ、なぜうけないとインネンをつけるし、うければ、なぜ返さぬ、とインネンをつける。返せば、又一杯押しつけて、返させる。途中に帰ろうとすれば、なぜ帰るとインネンをつける。見込んだら、放さない。
洋服のサラリーマンよりも労務者にタカルことが多かったが、一見乞食のような服装の老いたる労務者や馬力人夫などが、最もタカラれ、結局その方が確実にイクラカになる理由があってのことだろう。
こんなタカリは毎晩一パイ飲み屋の何軒かで見られたものだが、店の主人も店員も客のためになんの処置もしてやらない。こういう時には男手のないバーなどの方がはるかにシッカリしているもので、マダムとか、ちょッと世なれた女給たちはヨタモノを退散させてくれるものだ。歴とした店構えの酒屋などの主人に限って、後難を怖れて、客のために何の処置もしてくれない。又、四五十人もいるお客は顔をそむけて素知らぬフリでのんでいる。うっかりそッち
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