もう、手筈がととのっています」
 伊東に住んでいる車谷弘が総指揮に当って、カナリヤ書店と「新丁」という鰻屋の主人を参謀に、警察や芸者や料理屋の主人や旅館の番頭女中などにワタリをつけて、一席でも二席でも設けて話をききだす手筈がととのっているというのだ。
 私は、たしかに、興味があった。なぜ、ハンストをやっているのだろう? どうして、そんなに差入れがあるのだろう? と。

          ★

 最も卑俗なところを忘れてはいけないな、と私は自戒した。とかくそれを忘れがちだからである。窓の土台を押してみるのを忘れて推理しているたぐいだ。
 そこで私は考えた。ハンストというのはマユツバモノだ。先生、豪遊がすぎて、腹をこわしているのじゃないか、と。
 警察の人にきいてみると、私の考えた通りで、
「あれには騙されましたよ。ナニ、連日の飲みすぎで、下痢してたんですな。相当に胃がただれているようですよ」
 しかし、これも真相ではなかった。その数日後も、彼はまだハンストをやっていた。しかし、流動物はとる。そして、日に日に痩せている。すでに十七日目であった。
「ええ、まだハンストをやっていますよ」
 
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