と、別の警察の人が言った。
「そして、犯行についても、全然喋りませんな。上衣の襟クビを捉えられた地下鉄寮と、もう一軒物的証拠を残してきた旅館の犯行のほかは否認して、口をつぐんでいます」
なるほど、否認するためのハンストかと私は思ったが、これも真相ではなかった。真相というものは、まことに卑俗なものである。
「あれはですな。ハンストをやって流動物だけ摂っていると、衰弱して、保釈ということになります。前科何犯という連中、特に裕福な連中、二号三号をかこっているという連中がこれをやります。常習の手ですよ。あの先生も、二号というほどのものはないでしょうが、金は持っていますからな。保釈になって、それをモトデに、見残した夢を見ようというわけです」
狸御殿の殿様などは、この手の名人だということである。保釈で出ては新しい仕事をしている。
温泉荒しの泥棒といっても、たしかに、彼の場合は、完全な智能犯だ。狸御殿の殿様よりも、チミツなところがあるかも知れない。彼の編みだした温泉荒しの方法は、勝負が詐欺よりも手ッとり早いし、ある意味では、安全率が高い。なぜなら、誰にも姿を見られていないからである。見た人はあ
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