したからである。それは流星が空気にふれて火をふきその形を失うのに似ている。――こう考えて、私はことごとく敬服した。
折から文藝春秋新社の鈴木貢が遊びにきたので、私は温泉荒しの敬服すべき武者ブリについて、説明した。
「バルザックの武者ブリは、当代の文士の生活にはその片鱗も見られないね。たまたま温泉荒しの先生の余裕綽々たる仕事ぶりに、豪華な制作意欲がうかがわれるだけだ。芸道地に墜ちたり矣」
鈴木貢は社へ戻って、温泉荒しの武者ブリを一同に吹聴した。
膝をたたいたのが、池島信平である。
「巷談の五は、それでいこうよ。グッと趣きを変えてね」
ただちに私のところへ使者がきた。池島信平という居士の房々と漆黒な頭髪の奥には、ここにも閃光を放つ切点があるらしいので、私はニヤニヤせざるを得ない。
「なるほどね。温泉風俗を通して世相の縮図をさぐり、湯泉荒しの武者ブリを通して戦後風俗の一断面をあばく、とね。これも閃光を放つ切点か」
私は使者に言った。
「どうも、巷談の原料になるかどうか、新聞だけじゃ分らないよ。いったい、なんのためにハンストやってるのだろう? いろいろ、きいてみないとね」
「それは、
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