何枚うれた? と売り子にきいて、二十枚以下しか売れない券ばかり買い漁っているのが何人となくいるのである。
 競輪はたいがい大穴がでる。私の見た競輪は第一日目は三万何千円かの穴がでたし、二日目は一万と二万と合せて同じく三万円、三日目も二万円と一万円、合せて三万円。
 だから、三万円の軍資金を使って大穴狙いを専門にすると、この三日間の競輪に於ては、元はとれたが、モウケもなかったワケだ。
 そして、三万以上の大穴は、私の見た競輪場では、有り得ないことが分った。なぜなら、フォーカスの総売上げが六千枚前後で、四十五万円ぐらいを配当に払い戻すことになるワケだが、どの券も最低十三四枚は売れており、十枚以下ということがなかった。したがって、売れ行の最少の券に配当がついても、三万何千円が最高の配当で、どんな番狂わせでもそれ以上の配当は望みがなかったワケである。
 三万円の軍資金を使えば、大穴のでる限りは、必ず大穴が当る。その代り、その日、大穴がでなければ、損をすることになるのである。
 私は三日目にこの原理を利用して、たちまち一万五千円ばかり空費したが、五レースを終っても、穴がでない。そろそろ軍資金が乏しくなったので、中穴狙いに転向したら、トタンに二万何千円かの大穴がでて、バカをみた。それ以後は益々クサッて、スッテンテンになった次第であったが、その大穴が当っても、要するに元々で、モウケはなかったのである。
 大穴狙いのモウカル方法としては、はじめの第三レースぐらいまでに大穴がでて、そこで中止して帰ってくればモウカル。確実なるはそれだけだが、ともかく、競輪をやって損をしない方法としては、本命だけ買うか、全部買うか、どちらかで、しかし、どちらにも絶対という確実性はない。
 よく人々は云う。本命を復で買っている限り絶対に確実だ、と。だが、これとても、決して、そうは参らない。本命の複は、配当が元の百円か、よくて百十円ぐらいのものだ。したがって、十レースに一回外れても、九回のモウケをフイにするわけで、この原則は、券を何十枚買ったところで、変りがないのである。そして本命が負ける率は十レースのうちに一回以上多いのが通例である。
 そこで、合計して一日に三万円以上の穴がでる限りは、穴狙いの方がむしろ確実ということになる。十八万円、十五万円と大穴がでてくれれば、三日目に一度でても大モウケということになるワケだが、競輪は大穴がでる、穴狙いにかぎる、という見方が定まって、穴狙いの専門家が続出すると、どの券にも相当数の買い手がついて、どんな大番狂せがでても、三千円五千円ぐらいしか配当がつかないようになるのである。
 私の見た東海道某市の競輪は、穴のでる競輪場だと予想屋がしきりに絶叫していたが、たぶん、そうだろうと私も思った。
 なぜなら、ここは観衆が少く、東京方面から来る人も少い。したがって、売り上げも少く、配当も悪いとみて、競輪専門の商売人もあんまり乗りこんでこないらしいのである。したがって穴狙いの専門家も少いから、観衆の大多数が本命を狙い、売り上げは少くとも、穴が当ると、二万、三万の配当がつく。
 東京周辺の観衆の多い競輪場では、穴狙いの人種も多いから、売り上げに比較して、どんなボロ券にも相当以上の買い手がついており、結局、どんな大番狂わせがでゝも、配当は三千円ぐらいということになる。都会地に穴レースが少いのではなく、常に大穴レースは行われているのだが、穴狙いが多いので、配当が少くなって、表面上大穴にならないというだけのことだ。
 私の出かけた競輪場でも、大穴は午前中にでる、と云われ、事実、その通りであったが、これも売り上げの数字表を見ると化けの皮があらわれ、大番狂わせのレースは午後も行われているのだが、一度大穴がでると、みんな穴を狙いだし、又、午後になると自然焦って、多くの人が穴を狙いだすので、どんなボロ券にも相当数の買い手がついて、大番狂わせの配当率がグッと下っているだけのことだ。
 だから、穴狙いをやるのだったら、レースを見るよりも、車券の売り上げの数字表を見ることだ。総売り上げと、一番買い手の少い券の数を見て、配当を計算すれば、その日、大穴がでるか、出ないか、すぐ分る。大穴はレースの番狂わせによるのでなくて、車券の売り上げ数によるということを心得ていればよいのである。
 そこで売り上げの数字を見れば、その競輪に何人ぐらいの穴狙いがモグリこんでいるか分るし、どんな番狂わせがでても、三千円、五千円ぐらいにしかならない、ということや、あるいは二万、三万になりうる、ということが分ってくる。その計算の結果にしたがい、二万、三万の穴のでる見込みがあったら、穴専門に狙う方が確実にもうかる。なぜなら、番狂わせは、必ずといっていいほど、あるのだから、である。
 けれども、穴
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